メンター通信 第89号
発行日2011.6
私が言うのもなんですが、ランチェスター戦略ナニ?
私の所属する経済団体の中小企業家同友会で、今年度最後のグループ会というのを、行いました。
最後の回では、魔法のフライパンで有名な錦見鋳造の取締役に話をお聞きしました。
社長はよくマスコミにも登場するのですが、そのマーケティングを担当されていたのが奥さんの博子取締役です。
プレスリリースの使い方、ネットの顧客対応の仕方など実体験を通じでの話だったので、とても参考になりました。
私のグループではランチェスターの事例を研究していますが、博子取締役は読書家で、「小さな会社★儲けのルール 竹田陽一・栢野克己共著」が非常に参考になったということで、今回話をお聞きすることにしました。
その会が終わり、懇親会の席でのことです。
その博子取締役が、「ランチェスターって、やれるところがらやれっていうことですよね。だから気楽にできました」と言われて私の方に視線を送ってきました。
懇親会に参加された方も、同様に私を注目されましたが、私は答えることが出来ませんでした。
多分以前の私なら、
「そうですね。目的と手段を取り違えると達成できるものも出来ません。手段つまり自分が出来ることから考えて目標設定する。これが定石です」
「ですので、そのやり方は正しいです」と直ぐに答えてしまっていたと思います。
ところがその時は、ノドの近くまでこの言葉が出ていたのですが、言うのをためらってしまいました。
その理由は、厳密にいうとそれはランチェスター戦略でもなんでもないからです。
実は、こういうことは以前も良くあったんです。
「ランチェスターってこうだよね」
「ランチェスターだったらどうなるの」
とか聞かれるんです。
当時は、何も考えずに答えていたのですが、最近は正確に伝えるべきではないかと思うようになってきたからです。
ランチェスター戦略を説明するには、ランチェスターの法則をまず説明しなければなりません。
ランチェスターの法則は戦いの法則で、次の2つの場合で攻撃力を表す公式が違ってくるというものです。
その2つとは、
@一騎打ち戦(攻撃力=兵力数 × 武器性能)
A間隔戦 (攻撃力=兵力数の2乗 × 武器性能)
それぞれの戦いの状況に対する公式を括弧内に書きました。
このようにランチェスター戦略というのは、戦争に勝つために考え出されたものです。
それを、経営に応用していくわけですから、ランチェスターの法則のみならず軍隊で常識とされるものを理解しておかなければならない点があります。
そこで知っておかなければならないのは、
「兵力数つまり数が多いほうが勝つ」という事実です。
命が掛かった戦争で、自分の軍より多い敵軍にまともに当たっていくような将軍はいません。
これを経営に置き換えると営業マンの数が少ない。お客さんの数が少ない。資金が少ない。など量で劣る場合に、その市場に参入しないということになります。
とは言え中小企業の場合や独立する場合は、条件で劣るのは当たり前のことです。それでも不利は不利なりに戦いを挑まなければなりません。
この時の戦う知恵を、弱者の戦略といいます。
ランチェスターの法則から導き出された大切なことの一つは、中小企業は弱者の戦略で経営を進めなければならいということになるのです。そこで弱者の戦略を研究しましょうということになるのです。
弱者は戦ったら負けですので、戦いが発生しないようにするのが一番よい方法です。
例えば何の考えもなく何の対策も講じず、入札に参加するのは馬鹿げているということです。
また研究と言うのは、2つあります。
一つは弱者の戦略とは何かを知ること。
もう一つは、弱者の戦略で置き換えるとどうなるか。という思考の繰り返しトレーニングを積むことです。
ランチェスター戦略を理解するために押さえておかなければならないのは、任務遂行の手順と役割です。
将軍は、どんなことがあってもこの軍を勝たせるという強い信念、熱意を持つ必要があります。
次に戦いをする大義名分目的になります。そしてそれを達成するための目標、どうやって効果的に達成するかという戦略とその戦略展開、そして部下の教育と訓練。最後に実際に戦いに臨む戦術活動です。
この任務遂行の手順を知っておく必要があります。
経営に適用するとどうなるかといいますと、
@どんなことがあってもいい会社にするという社長の信念。
Aそれを遂行する大義名分。正しい目的の設定。
B自社の力で攻略できる目標の設定。
Cその目的・目標を会社全体が効果的に達成できる戦略。
Dその仕組み作り。
Eそして教育訓練。
F実作業。の順番になります。
注意しなければならないのは、この目的や目標を設定するときに、「手段と目的を間違えるな」という軍隊の格言です。
例えば、見積書を提出するというのは、手段です。
それが目的になったら、見積産業屋さんになってしまいます。
ハガキを書くというのも手段です。目的をと違えると兎に角ハガキを出すことだけになります。
経営活動では、お客さんに好かれて、気に入られることが必要なのに相手の都合を考えず売り込みのはがきばかりだしたり、逆にお客が商品を買うときに忘れられてはならないのに、人間関係の構築のハガキばかり書くというのも手段が目的になった良くない例です。
これが軍隊の常識として知っておかなければならない2つ目、任務遂行の手順です。
次に、ランチェスター法則を経営に応用するには、さらに経営のことを理解する必要があります。
まずは経営の目的です。
経営の目的は、粗利益を稼ぐことにあると考える方がみえると思います。確かに粗利益は必要です。
必要ではありますが、それを目的にすると一見儲かりそうなものに手を出します。その都度売り先を見つける。こんなことをしていたら、儲けた利益を次の事業ですべて使い果たしてしまうことになります。
うまく利益が出続ければいいのですが、利益が悪くなると事業を続けられなくなります。経営は、1年2年の勝負ではなく何十年もの間戦うわけですから、会社を率いる経営者としては、ちょっと違うのではないかなぁと思います。
そこでもう一度、心を空にして考え直すと事業の目的が粗利益の大元であるお客さんの支持を集めることにあるという結論になるわけです。
こういったことから始まり、そこには競争相手が発生するという経営の大局。経営の要因。市場の利益性の原則など経営の原則を理解しておく必要があります。
このように軍隊の戦い方の基本。経営の基本。を理解した上でランチェスターの法則を自社の経営に応用していくのが、ランチェスター戦略です。
取り分け中小企業の場合は、弱者であることが多いので弱者の戦略をその戦略概念として研究する必要があります。
如何でしょうか。
ランチェスター戦略なんて一言で言えないことを少しお解り頂けたでしょうか?
結果を求めると企業はすべてウツになる
ある会の会議の席のことです。
社員さんがウツ病になった経験がある人という質問に20社ほどあった会社のほとんど手が上がりました。
ウツの社員さんが出なかったところはたった1社。
実は私が以前勤めていた会社でも、ウツになった人がいました。
そこで皆さんに傾向を聞いていることにしました。
するとまじめで優秀な人という意見が多かったのです。確かにそう言われればそのような気がしました。
私は医師ではないので、本当のところはよくわかりませんが、ウツというのは、自分を許せない状態になるそうですね。
ですので、思うような成果が上がっているときは、よいのですが上手くいかなくなると自分を責めて、耐え切れなくなり現実逃避することになるのではないかと思います。
高度成長時代の日本であれば、多少やり方がまずくても結果がでることが多いですし、人の真似をしていればなんとかなったものです。ところが、市場が小さくなっていく日本で成功する確率もすくない。
こんな状況で、自分自身に結果責任を求めるとウツになる可能性が高くなりますよね。
そうかと言って、成果がでなくてもよいわけではありません。
一見矛盾があるようですが、本当によい会社では、この矛盾がうまく解決されているようです。
例えば、伊那食品工業の塚越会長は、「売り上げ目標とか、利益目標はないですね。利益が上がる仕組みになっていますから」とおしゃっていました。
利益目標があってもよいと思うのですが、駄目な組織と言うものは、失敗したことを責める傾向があります。
逆に考えると失敗ができる組織と言うのは、それだけ余裕があり、またチャレンジできる組織です。
企業は、できるだけリスクをすくなくしようと努めなければならない。だが企業の行動が、リスク回避という考えによってのみ支配されている場合には、その企業は、リスクのうち最大で、しかも最も合理的でないもの、すなわち、無為に過ごすというリスクを結局負うことになる
ドラッカー(「創造する経営者」より)
良い会社は成果を求めるのではなく、行動を求めるのです。
それには、どういう行動をして欲しいかを、示唆しなければなりません。
それもできるだけ評価ができるようにするのです。
やったのか。やらなかったのか。イエスがノーかはっきりするものがよいでしょう。
例えば、営業の場合、通常「月いくらの売上を上げる」とか「いくらの粗利益を上げる」かが目標になります。
でもこの目標は、お客さんのいることなので結果がどうなるのかは誰にもわかりません。
会社の運営で最低いくらの売上が必要だからといっても、市場がなければどれだけ優秀な営業でも目標を達成することはできません。これまで達成できてきたのは、市場が拡大していたという要因が多いと思います。
それではどういう目標にするかですが、営業力は「営業力 = 接触回数の2乗 × その質」で表されます。
そこで接触回数を目標にします。何回一人のお客さんと接しするかということを目標にします。
まず量を上げることに目標を掲げます。これなら1回は1回です。
次に質の分野に入ってきます。営業の質が高いかどうはの第一番目はお客さんのことをよく知っているかどうかです。
例えば、決定権者がどうやって会社に入ったか。
どういう学校に行っていて、どういう活動をしてきたか。
会社でどういう役割をしているのか。という個人的な話から始まりその会社がどのような仕事をしているのか。得意先はどういうところなのか。などを少しずつ聞き出してきます。
業種業態によって、その内容は異なるでしょうが予め会社の方で項目を決めておいて、今回はこれを聞き出すというように目的を持って訪問するようにします。
また聞き方の文言など決めておくとよいでしょう。
お客さんから話を聞き出せない人は、お客さんの機嫌を損なわずに、聞く方法が解らないだけです。
このように営業の仕事を誰でも出来ることに置き換えてその行動ができたかどうかを、評価します。
「凡人に非凡なことをさせる」ことが、
組織の目的である。どんな組織も、天才にたよることはできない。天才はまれであり、いつ現われるかは予見できない。しかし、組織を構成する普通の人々に能力以上の仕事をさせ、その長所を伸ばし、それを利用してりっぱな仕事をさせるようにしうるかどうかは、すべて組織の良否を判定する基準になる。成員の弱点が表面に現われないようにしうるかどうかも、組織の良否を判定する基準となる。
ドラッカー(『現代の経営』より)
まり従業員はやりべきことを楽しくやれば、事業も順調に伸びていくし、やりがいもあるということになり結果責任を従業員に押し付けるようなことはしなくてすみます。こういう組織にしていけば、きっとウツになるようなことはなくなるんでしょうね。
ニュースレターをお読み頂きありがとうございます
記事のご意見・ご感想をお寄せください。
【編集 ランチェスター経営三重岩崎】
【連絡先TEL 059-398-0123 FAX 059-398-0153 】